大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)241号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二 右当事者間に争いのない本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二、第三号証(以下「本願明細書」と総称する。)を総合すれば、本願考案はいわゆるヘテロ接合を有する積層構造からなる半導体レーザーに関すること、この種半導体レーザーの技術上の問題点の一つとして、発生レーザー光が所定の伝搬方向とは異なる方向に進む横モードやレーザー励起電流路の側方への拡がりをいかにして抑制するかという問題があり、従来から様々の解決手段が研究、開発されてきたこと、本願考案は、酸化工程等を必要とする従来手段より簡略な手段で右問題点を解決し、したがつてより簡単に製作できる半導体レーザーの提供を目的として、前記本願考案の要旨のとおりの構成を採用したものであることが認められる。そして、引用例に審決摘示(審決の理由の要点2)のとおりの半導体レーザーが記載されていること、右半導体レーザーと本願考案の半導体レーザーは、審決摘示(同3)の相違点、すなわち、電極層の材質、第一層のドーピング密度、第二層のドーピング密度及びアルミニウムの組成割合の点(相違点(1))及び本願考案の半導体レーザーが第二層両側部分の厚さを約〇・四μmに限定した点(相違点(2))で相違するのみで、それ以外には格別の差異がないことは当事者間に争いがなく、また、相違点(1)に対する審決の認定判断(同4(一))、すなわち、相違点(1)に係る本願考案の構成が周知技術に基づき極めて容易に想到し得るものにすぎないとした点についても、原告の認めて争わないところである。

三 取消事由に対する判断

1 原告は、取消事由として、相違点(2)に対する審決の判断(審決の理由の要点4(二))の誤りを主張し、その理由として、<1>右審決の判断は、引用例記載の半導体レーザーでも第二層両側部分の厚さが薄くされているとの誤つた認定を前提としている点で失当である、<2>そうでないとしても、第二層両側部分の厚さを約〇・四μmに限定した本願考案の構成は当業者の容易に想到し得るところではない旨主張しているので、判断する。

(一) まず、原告主張の右<1>の点についてみるに、審決摘示に係る引用例記載の半導体レーザーが、引用例の第4図及び第5図に示されたメサ・ストライプ型のダブルヘテロ接合半導体レーザーを指すことは成立に争いのない甲第四号証に徴して明らかであるところ、右各図によれば、その半導体レーザーは、第一層の外側にある第二層両側部分の厚さを第一層の下の中央部分の厚さのほぼ半分程度にしたものであることが明瞭であることに加え、本願明細書(前掲甲第二、第三号証)自体も、考案の詳細な説明の項において、「更に帯状のP―GaAs第一層に接するP―GaAlAs第二層の第一層の両側にはみ出している部分が薄くエツチされ、帯状の第一層と第二層の両側の薄くなつた部分とがシヨツトキ障壁金属層で覆われている半導体レーザーも既に提案されている(特開昭五〇―七一二八一参照)。」(甲第二号証の明細書三頁一八行ないし四頁四行)と記載して、従来技術の一つとして引用例を示し、その第二層両側部分の厚さがエツチングにより薄くされていることを認めていることに徴すれば、引用例記載の半導体レーザーが、審決認定のように、第二層両側部分の厚さをエツチングにより薄くしているものであることは明らかというべきである。この点に関し原告は、引用例二頁右上欄一七行ないし二〇行には、第4図について、「メサ部分7を残して、他の部分を第3層(GaAlAs)3が表面に現われるまでエツチングにより選択除去する。」との記載があることからして、引用例においては、第二層の両側部分の表面が露出すればエツチングを止めることを予定していることは明らかであり、第二層両側部分に関する同図の図示は表面を露出させることを示すための作図上の誇張にすぎない旨主張している。たしかに、前掲甲第四号証によれば、引用例中に原告指摘のとおりの記載があることが認められるが、前記認定のとおり、引用例の第4図及び第5図に、現に第二層の両側部分を薄くした半導体レーザーが明示されている以上、右記載は、第二層両側部分の表面をエツチングにより少なくとも露出させる必要があることを述べたにとどまり(そのこと自体は、前掲甲第四号証により、引用例記載の半導体レーザーにおいても電極層を第二層両側部分に接触させる必要があることが認められることに徴し、当然のことにすぎない。)、該部分のエツチングをそれ以上進めるか否かについてまでは何ら触れるところではないと解するほかなく、また、前掲甲第四号証の全記載に徴しても、ほかに第二層両側部分のエツチングをそれ以上進めてはならない旨の記載や示唆を見出すこともできないのであるから、この点に関する原告の主張は採用しがたい。

したがつて、原告主張の前記<1>の点は理由がない。

(二) 次に前記<2>の点についてみるに、この点に関する原告の主張は、その主張内容自体に徴し、第二層両側部分の厚さを〇・四μmに限定した本願発明の構成の技術的意義が、活性領域内の基底横モードの光波伝搬に第二層両側部分の厚さが関係するとの新知見に基づき、該部分の厚さとして右光波伝搬に最適の値を選択した点にあるとの主張を前提とするものであることが明らかであるので、まず、この点について検討する。

前記当事者間に争いのない本願考案の要旨に徴すると、本願考案が、第一層の外側にある第二層両側部分の厚さを約〇・四μmとする点をも要旨とするものであることは明らかであるが、前掲甲第二、第三号証によれば、その技術的意義については、本願明細書中に、僅かに、「第1図に示すように層16はその両側部分を奥行全体に亘つて取り除き中央に帯状部分だけを残す。同時に層15の両側部分も厚さを減少させる。その残留厚さはその下の層14への短絡が生じない程度の厚さ例えば〇・四μmとする。」(甲第二号証の明細書九頁三行ないし七行)との記載が見出せるのみであつて、原告主張のような点は何ら記載されていないことが明らかである。原告は、ほかにも、その主張を裏付ける本願明細書中の記載として、「この考案によるレーザー・ダイオードでは帯状区域21の両側において半導体材料を除去することにより層15の幅を更に限定することができる。これによつてレーザー励起電流路の側方への拡がりが阻止され、また基底横モードの励起が一層顕著となる。」(同明細書の一一頁七行ないし一二行)との記載を援用しているところ、前掲甲第二号証によれば本願明細書中には原告主張のとおりの記載があることが認められるが、右記載中には層15(第二層)の「幅」を更に限定する旨明記されていること、本願考案の半導体レーザーもメサ・ストライプ型半導体レーザーであつて、半導体層の一部をエツチングにより幅方向に除去することにより帯状のメサ部を形成し、レーザー励起電流路の側方への拡がりを阻止することにより良好なレーザー発振特性を得ようとするものであること(この点は当事者間に争いがない)に徴すれば、右記載は第二層の厚さとの関係ではなく、第二層の幅の限定、すなわち第二層におけるメサ部の形成及びそれによる効果に関する記載であることが明らかであるから、右記載を原告の主張の支えとすることはできない。

そうであれば、第二層両側部分の厚さを〇・四μmに限定した点の技術的意義に関する原告の主張は明細書の記載に基づかない主張といわざるを得ず、前記<2>の原告の主張がこの点を前提とするものであることは先に述べたとおりであるから、結局前記<2>の原告の主張もその前提において既に理由がないものというべきである。

(三) そして、以上認定説示してきたところに徴すれば、本願考案において第二層両側部分の厚さをほぼ〇・四μmと規定した点の技術的意義は、第二層の一部にメサ部を形成すること等との関連で薄くした両側部分の厚さとして、その下の活性層との間の短絡を防止する観点から〇・四μm程度の厚さを選択したという以上のものと解することは困難であり、前記(一)認定のとおり、引用例にも第二層両側部分の厚さを薄くする点の構成が示されている以上、その厚さの選択は当業者が実施に当たり適宜決定すべき設計事項にすぎないというべきであるから、これと同旨に出た相違点(2)に対する審決の認定は正当であつて、何ら誤りはない。

2 そうであれば、原告主張の取消事由は理由がなく、また、本件全証拠によるもほかに審決を取り消すべき事由は見出せない。

四 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。

異種半導体接合を含む積層構造を備え、その第一層(16)はPドープガリウム・ヒ素(GaAs)からなり両側から狭められて帯状となり、それに続く第二層(15)はPドープガリウム・アルミニウム・ヒ素(Ca1-xAlxAs)からなり帯状の第一層の外側にある両側部分はその中央部分より薄くされ、最上部の電極層(18)は帯状の第一層(16)全体と第二層(15)の両側部分151(152と)´を覆つている半導体レーザー・ダイオードにおいて、最上部電極層の材料としてクロム金合金が使用されこの電極層が直接第一層に接していること、第一層(16)のドーピング密度が少なくとも5×1018cm-3であること、第二層(15)のドーピング密度は1018cm-3以下であつてそのAl比率xが〇・二五と〇・六の間にあること、帯状の第一層(16)の外側にある第二層(15)の部分151(152が)´約〇・四μmの厚さになつていることを特徴とする半導体レーザー・ダイオード

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!